【詩集 龍の還る日】山田一子
植木鉢の荒野
周囲は緑にはしゃいでいたが
植木鉢ひとつ
鉢一個分だけの荒野があった
植物がその中で生涯を終えた
残った土から突き出ているのは
干からびたヒゲ根状のものだけ
養分も水分も果てていた
夏の猛暑も日照りも
冬の寒さも乾燥も
育む土壌の役目を終えた今では
過酷でも試練でもなかった
荒野になった植木鉢には
何も受け容れる気持ちなどなかったが
ヘリコプター型のプロペラを持つそれが
どこからか飛来し荒野に着地した
やってきたものを
拒みはしなかったものの
ここで滅んでも歎きはしない
根付いたとしてもべつに慶ばない
芽生えから結実までひとつ見届け
役割はとっくに終わったのだから と
なにか孕ったような気分で
鉢は雨を待っているのに気付く
★表紙にスレあり
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